冬の夢
冬の夢
スコット・フィッジェラルド
村上春樹訳(村上春樹 翻訳ライブラリーより)
短編集になっている。 冬の夢、メイデー、罪の赦し、リッツくらい大きなダイアモンド、ベイビー・パーティの前5作。 翻訳者曰く「プレ・ギャッツビー」期の作品群。
いつも通り簡単な引用とメモ集です。
メイデー
p110
唇は深いカーマイン色で精妙に仕上げられていた。
カーマインの色がわからなかった。口紅から赤系統の色だろうなとはわかったが、具体的にどの色を指しているのかわからなかったのでwikiで調べた。
p184からp185にかけて。
メイデーの締め。 ゴードン・スタレットが自殺するシーン。 このp184からp185にかけての自殺するまでの流れの文章は今まで読んだ中では最も簡潔でそれでいてある種の(それでもなお小説くさいが)リアリティがあった。いつか、読み漁った文章を集めて小説自殺集とか出したら面白そうである。
最後の数行だけ引用する。
すぐそばに生命の気配があることを感じたのは、誇りを含んだ陽光を認め、大きな革製の椅子のほつれを目にした三十秒ばかり後のことだっただろう。そして自分がジュエル・ハドソンとの取り返しのつかない結婚をしてしまったことに思い当たったのは、更に三十秒あとのことたった。 彼は三十分後にそこを出て、スポーツ用品点で回転拳銃を買い求めた。それからタクシーを拾って、東二十7丁目通りにある自分の部屋に戻った。そして画材を並べたテーブルに前屈みになり、自分の頭の、こめかみの少し後ろに弾丸を撃ち込んだ。
リッツくらい大きなダイアモンド
p236「そんなの全然お話にもならないさ。だって僕の父は、リッツ・カールトン・ホテルよりも大きなダイアモンドを持っているんだもの。」
p250 「この館が建てられている山だよ。山としては大きいわけじゃない。でも表面を覆っている五十フィートほどの土やら小石やらをどかせば、そのしたはガッチリしたダイヤモンドでできているんだ。まるごとひとつの、疵一つないダイヤモンドだよ。大きさは一立方マイル。聞いているのか? だから - 」
巨大なダイヤモンドを見つけたワシントン家に主人公のジョンがお邪魔するお話。世の中の全ての富を持つと言っても過言ではないワシントン家が没するところでお話は終わる。
ラインストーン
ガラス細工でできた模造ダイヤモンドをラインストーンというらしい。
「私たちは誇り高いの」(省略)
「私たちは誰一人として罰を受けたことがないのよ。罰を受けたりするべきではないと父は言っている。一度姉のジャスミンが小さいときに、父を階段の上から突き落としたんだけど、父は何も言わずにただ立ち上がって、そのまま足を引きずって立ち去っただけ。」
ワシントン家の娘、キスミンに恋に落ちるジョン。 キスミンからの会話からもワシントン家の異常さが伝わってくるエピソード。
ワシントン家は山のような(というより山の)ダイヤモンドを隠し通すために発見者を監禁、または抹殺していた。
p272「運悪く黄金郷を発見してしまった冒険好きの船乗りたちがここにいる。」
暗い穴の上からジョンとワシントン氏が監禁されている人たちを見下ろしているシーンの一言だ。
最終的には、逃亡者によってダイヤモンドを隠し持っていることがばれ空襲に遭いワシントン家は失墜する。
最後にワシントン氏が巨大なダイヤモンドをもって神様に時間を戻せと真剣に懇願するシーンはみものであり、哀れでもあった。
p316 「それは実際に夢だったのさ」とジョンは静かに言った。 「全ての人の青春はただの夢に過ぎない。科学的な狂気のひとつのありように過ぎないんだ。
村上春樹翻訳フェアでフィッジェラルドの短編集を読み漁っている。 グレートギャッツビーは超有名なので今年度中に目を通してみたい。